税理士事務所のAI活用事例5選と導入時の注意点
税理士事務所でAI活用を検討しているものの、何から始めればいいのか分からないという声が増えています。顧問先の数だけ業務が積み重なる会計事務所にとって、AIをどの業務にどう活用するかは重要なテーマです。
一方で、すべての業務にAIが有効というわけではありません。この記事では、税理士事務所の5つの主要業務を整理した上で、AI活用が効果的な領域と、既存ツールに任せるべき領域を明確に分けて解説します。
300社以上のDX支援実績を持つ株式会社LOGのコンサルタントが、税理士事務所向けのプロジェクトを複数担当する中で得た実践的な知見をもとにお伝えします。
税理士事務所の5つの業務とAI活用の可能性
税理士事務所・会計事務所の業務は、大きく5つに分類できます。
・仕訳・記帳整理業務
・月次決算・報告レポート作成
・税務申告・決算業務
・顧問先からの問い合わせ対応
・顧問先への提案・アップセル
このうち、AI活用で大きな効果が出るのは1つ目、2つ目、4つ目、5つ目の4領域です。3つ目の税務申告業務については、マネーフォワードやfreee、JDLといった既存の会計ソフトが特化しており、AIで独自に仕組みを作るよりも既存ツールを活用した方が効率的です。
AIは万能ではなく「最適な手段」を選ぶことが重要
AI活用で成果を出している事務所に共通しているのは、何でもAIに置き換えようとしないという点です。業務によってはAIよりも既存のシステムを使った方が圧倒的に速いケースもあります。AIはあくまで手段の一つであり、業務ごとに最適な選択をすることが成果につながります。
導入率は10〜30%、これからの事務所が大半
日本の税理士事務所でAI活用やDXを進めている割合は、調査によって10〜30%程度とされています。まだ導入していない事務所が大半であり、今から取り組んでも十分に先行者優位を得られる段階です。
記帳・仕訳業務をAIで効率化する方法
会計事務所のスタッフが最も多くの時間を費やしているのが、仕訳・記帳整理の業務です。顧問先から送られてくる領収書や請求書を、会計ソフトに正しく入力していく作業は、1社だけなら小さな負担でも、数十社分を処理するとなると膨大な時間がかかります。
領収書の読み取りとデータ変換の自動化
AIを活用した記帳業務の効率化で最も実用的なのが、領収書のスキャンデータをAIで読み取り、ExcelやCSV形式に自動変換する仕組みです。
スキャナーで読み取ったPDFデータをアップロードすると、AIが金額・取引先・日付などのテキスト情報をすべて読み取り、会計ソフトに取り込める形式で出力します。あとはスタッフが内容を確認してシステムにアップロードすれば、入力作業が大幅に削減されます。
勘定科目の自動判定が精度向上の鍵
記帳業務で手間がかかるのが、勘定科目の判定です。同じ領収書でも、法人のカードで切ったのか個人のカードで切ったのかによって科目が変わります。交通費なのか、交際費なのか、福利厚生費なのか。こうした判定を一つひとつ行いながら、数字の二重チェックまでするのが現場の実態です。
AIに過去の仕訳パターンを学習させることで、勘定科目の自動判定の精度を上げることが可能です。取引先ごとに科目番号が異なるといった細かな設定にも対応できる仕組みを構築すれば、スタッフの判断業務を大幅に軽減できます。
月次報告レポートの作成をAIで自動化する
会計ソフトにデータが入力されると、次はそれを顧問先に報告する業務が発生します。月次報告は毎月必ず発生する作業ですが、意外と属人化しやすく、仕組み化が遅れている事務所が多い領域です。
数値分析とコメント生成の自動化
月次報告で手間がかかるのは、数値のまとめ作業そのものよりも、コメントの作成です。現金残高の推移や原価の変動など、数字の裏側にある意味を読み取り、顧問先に分かりやすく伝える必要があります。
AIを活用すれば、会計データをもとに注目すべきポイントを自動で抽出し、報告用のコメントを生成できます。担当者はゼロからコメントを考えるのではなく、AIが作成したたたき台を確認・修正するだけで済むため、レポート作成の工数が大幅に削減されます。
業界知識をAIに組み込む重要性
月次報告の質を左右するのが、業界ごとの相場観です。例えば流通業であれば利益率が7〜10%でも優秀な水準ですが、この前提を知らなければ的外れなコメントになってしまいます。
会計事務所はさまざまな業界の顧問先を抱えているため、担当者一人がすべての業界に精通するのは困難です。業界別の基準値や指標をAIのナレッジとして組み込むことで、経験の浅いスタッフでも質の高い報告ができるようになります。
1人の担当者が50社、100社を抱えるケースもある中で、毎月すべての顧問先に対して価値のある報告を行うには、AIによる仕組み化が不可欠です。
顧問先からの問い合わせ対応にAIを活用する
顧問先からは日常的にさまざまな質問が寄せられます。この問い合わせ対応は大きく2種類に分かれ、それぞれに適したAI活用の方法が異なります。
個別データに基づく問い合わせへの対応
1つ目は、その顧問先固有のデータに関する問い合わせです。請求書の発行状況や特定の取引の確認など、会計ソフトの中身を見なければ回答できない質問がこれにあたります。
このタイプの問い合わせは、担当スタッフがシステムを直接確認した方が速いケースがほとんどです。AIの活用ポイントは、調べた結果をもとに回答文を素早く作成する部分に集中させるのが効果的です。担当者がキーワードや要点を入力すれば、普段やり取りしているチャットやメールのフォーマットに合わせた回答文をAIが生成してくれます。
一般的な税務知識に関する問い合わせへの対応
2つ目は、年末調整の期限、消費税の納付時期、予定納税の仕組みなど、一般的な税務知識に基づく問い合わせです。
こちらはAIの得意領域です。過去の問い合わせ内容をQ&Aシートとしてまとめ、最新の法改正情報を国の公式サイトから取得する仕組みと組み合わせることで、正確かつ最新の情報に基づいた回答を自動生成できます。
社内に蓄積された過去の回答ノウハウと、Web上の最新情報を組み合わせたチャットボットのような仕組みを構築すれば、問い合わせ対応の工数を大きく削減できます。
顧問先への提案力をAIで強化する
税理士事務所にとって、顧問先の売上を伸ばすための提案は、顧問料のアップセルに直結する重要な業務です。しかし、日々の記帳業務や問い合わせ対応に追われ、提案に十分な時間を割けていない事務所が少なくありません。
補助金・助成金情報の自動収集
決算後の提案で効果的なのが、顧問先が活用できる補助金や助成金の情報提供です。国や自治体のホームページから最新の施策情報をAIで自動収集し、顧問先の業種や規模に合ったものを抽出する仕組みを作れば、ベテランの担当者でも追いきれない情報を網羅的にカバーできます。
会計データを起点にした経営提案
会計事務所が持つ最大の強みは、顧問先の財務データを把握していることです。製造原価が高い企業にはコスト改善のコンサルティング会社を紹介する、広告宣伝費の割合が大きい企業にはマーケティング支援会社を紹介するなど、数字に基づいた具体的な提案が可能です。
AIに顧問先の企業URLや財務データの傾向を読み込ませれば、どのような提案が有効かのたたき台を自動で生成できます。さまざまな業界の顧問先とつながっている税理士事務所だからこそ、顧問先同士のマッチングも含めた幅広い提案が実現できます。
記帳や問い合わせ対応の効率化で生まれた時間を提案業務に充てることで、顧問先の満足度向上と顧問料のアップを同時に実現できる好循環が生まれます。
税理士事務所がAIを導入する際のセキュリティ対策
税理士事務所がAIを活用する上で、最も注意すべきなのがセキュリティです。会計データや個人情報を扱う業種だからこそ、適切な対策を講じた上で導入を進める必要があります。
個人プランの利用に潜むリスク
スタッフが個人のChatGPTアカウントで業務データを扱っているケースは少なくありません。しかし、オプトアウト設定を適切に行わないと、入力したデータがAIの学習に使われる可能性があります。
会社名が含まれる請求書や、お金に関わる機密情報を個人プランで読み込ませることは、情報漏洩のリスクにつながります。セキュリティの問題による損害がニュースになるケースも増えており、組織としてのルール整備が急務です。
正しく対策すれば安全に活用できる
セキュリティが心配だからAIを使わないという判断も、それはそれでもったいない選択です。法人向けプランの導入、オプトアウト設定の徹底、利用ルールの策定など、正しく対策を講じれば安全にAIを活用できます。
リスクを正しく理解した上で、適切な環境を整えて活用していくことが、これからの税理士事務所には求められます。
まとめ
税理士事務所のAI活用は、5つの主要業務のうち4つの領域で効果を発揮します。記帳・仕訳業務の効率化、月次報告レポートの自動化、問い合わせ対応の迅速化、そして顧問先への提案力の強化です。一方で、税務申告業務については既存の会計ソフトを活用した方が効率的であり、AIは万能ではないという視点も重要です。
まだAI活用に着手していない事務所が大半を占める今だからこそ、早期に取り組むことで競合との差別化が図れます。まずは記帳業務の読み取り自動化など、効果が実感しやすいところから始めてみてください。
株式会社LOGでは、税理士事務所・会計事務所向けのAI活用支援を行っています。セキュリティ対策を含めた導入設計から伴走支援まで対応しておりますので、お気軽にご相談ください。



